1 こうして、王とハマンはやって来たのです。
2 酒がふるまわれるころ、王はもう一度たずねました。 「エステルよ、いったい何が欲しいのじゃ。 願い事を申すがよい。 何なりとかなえてやろう。 帝国の半分でもな。」
3 ついに、王妃エステルの重い口が開きました。 「ああ、陛下。 もし、もし私をいとしいとお思いでしたら、そして、もしこの事がおこころにかないますなら、何とぞ、私と私の同胞のいのちをお助けください。
4 このままでは、私も同胞の者たちも助かるすべはありません。 皆殺しにされる運命なのです。 奴隷に売られるだけなら、口をつぐんでもおれました。 もちろんその場合でも、陛下は測り知れない損失をこうむられたでしょうけれど。 実際、それはお金では償えないものでございます。」
5 王は唖然として言いました。 「はてさて何のことを申しておるのかな。 かわいそうに、いったいどこのどいつが手出しをするというのじゃ。」
6 「恐れながら陛下、ここにおりますハマンこそ、悪の張本人、私どもの敵でございます。」二人の目の前で、ハマンの顔からはみるみる血の気が引いていきました。
7 王は荒々しく立ち上がると、庭に出て行きました。 もうだめです。 自分のいのちは風前の灯だと察したハマンは、立って王妃エステルに命乞いを始めました。
8 やがて彼は絶望のあまり、エステルのもたれていたソファーにくずれかかりました。 ちょうどその時、王が庭から引き返して来たから大へんです。「この宮殿の中で、しかも余の目の前で、王妃に手を出すつもりかっ!」 王の怒りが爆発しました。 その場で直ちに、ハマンの顔には死刑用のベールがかけられました。
9 その時、王の側近ハルボナが申し出ました。 「陛下、ハマンはモルデカイをつるそうと、二十五メートルもある絞首台を自宅の庭に作らせております。 事もあろうに、暗殺者の手から陛下のおいのちを救った、あのモルデカイをでございますよ!」すかさず王は命じました。 「ハマンをそれにつるせっ!」
10 こうしてハマンは処刑されたのです。 それでやっと王の憤りもおさまりました。