1 さて、神様が造ったものの中で、蛇が一番ずる賢い動物でした。蛇は女に、ことば巧みに話をもちかけました。 「ほんとうにそのとおりなんですかねえ? いえね、ほかでもない、園の果物はどれも食べちゃいけないって話ですよ。 なんでも神様は、これっぽっちも食べちゃいけないと言ったっていうじゃないですか。」
2-3 「そんなことないわ。 食べるのはちっともかまわないのよ。ただね、園の中央にある木の実だけは、食べちゃいけないの。 そればかりか、さわってもいけないんですって。 さもないと、死んでしまうって、神様がおっしゃったわ。」
4 「へえーっ、でも、そいつは嘘っぱちですぜ。 死ぬだなんて、でたらめもいいところだ。
5 神様も意地が悪いね。 その実を食べたら、善と悪の見わけがつき、神様のようになっちまうもんだから、脅しをかけるなんてさ。」
6 言われてみれば、そう思えないこともありません。 それに、その実はとてもきれいで、おいしそうなのです。 「あれを食べたら、何でもよくわかるようになるんだわ。」 そう思いながら見ていると、もう矢も盾もたまらなくなり、とうとう実をもいで、食べてしまいました。 ちょうどそばにいたアダムにも分けてやり、いっしょに食べたのです。
7 はっと気がついたら、二人とも裸ではありませんか。 急に恥ずかしくてたまらなくなりました。 何とかしなければなりません。 間に合わせに、いちじくの葉をつなぎ合わせ、腰の回りをおおいました。
8 その日の夕方のことです。 神様が園の中を歩いておられる気配がしたので、二人はあわてて木陰に隠れました。
9 神様の呼ぶ声が聞こえます。 「アダム、なぜ隠れるのだ。」
10 「神様がおいでになるのに裸だったからです。 こんな姿はお見せできません。」
11 「なにっ、裸だということを、いったいだれが教えた? さては、あれほど食べるなと言ったのに、あの木の実を食べたのだな。」
12 「は、はい。 で、でも、神様が下さった女がくれたもんで、つい……。」
13 そこで神様は女に尋ねました。 「いったいどうして、こんなことをしたのだね。」「蛇、蛇がいけないのです。 私はただ、だまされただけです。」
14 それを聞いて、神様は蛇に言い渡しました。 「悪いやつめ、そんなことをした罰だ。 いいか、あらゆる家畜、野生の動物の中で、おまえだけがのろわれるのだ。 生きている間ちりの中をはいつくばうがいい。
15 以後おまえと女はかたき同士、おまえの子孫と女の子孫も同じだ。 女はおまえを恐れるだろう。 子孫同士も、互いに相手をこわがるようになる。 おまえは彼のかかとにかみついて傷を負わせるが、結局は彼に頭を踏み砕かれてしまうのだ。」
16 次は女の番です。 「おまえは苦しみ抜いて子供を産む。 それでもなお、ひたすら夫の愛を求め、彼についていく。」
17 最後はアダムです。 「あれほど食べてはいけないと言ったのに、おまえは食べた。 わたしよりも、妻の言うことを聞いたのだ。 そのため土地はのろわれる。 生きるためには、一生あくせく働かなければならない。
18 土地には、いばらとあざみが生え、おまえは野草を食べる。
19 死ぬまで汗水流して土地を耕し、働いて糧を得なければならない。 そしてついに死に、また土に帰る。 土から造られたのだから、また土に帰る。」
20 アダムは妻をエバ〔「いのちを与える者」の意〕と呼びました。 彼女は全人類の母となるからです。
21 神様はアダムと妻エバに、動物の皮で作った服を着せました。
22 それからこう考えました。 「人間は、われわれと同じように、善悪の区別がわかるようになってしまった。 この先、万一『いのちの木』にまで手を出し、永遠に生きるようにでもなったら大へんだ。」
23 そうならないうちに、手を打たなければなりません。 結局、人をエデンの園から永久に追放し、土地を耕させることに決めました。
24 こうして人を追放すると、エデンの園の東に炎の剣を置き、力ある天使とともにいのちの木を守らせました。